はじめに
この記事は自作曲「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」について先日書いたこちらの記事の続編です
今回は上記の前回記事の中で以下のように書いた部分についてのお話です
2. 和声とメロの展開に気を配る
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メロも同様に1~8小節、9~12小節、13~20小節の3つの部分で構成しています
そして和声に関しては丸の内進行を土台としつつ、メロの展開を意識しながらオルタードテンション多めに色付けしていきました
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この点に関しては次の記事で詳しく書いていく予定です
オルタードテンションって?
まずはじめにオルタードテンションについてざっくり説明しますと
ドミナント7thコード(広義の; すなわちセカンダリードミナントを含むすべての7thコード)[注]に付加することができるテンションノートのうち♭9th, ♯9th, ♭13thをオルタードテンションと呼びます
対して 9th, 13thをナチュラルテンションと呼びます
オルタードテンションを使うとナチュラルテンションに比べ一風かわった、より複雑な響きに聞こえることが多いです
なおここでは♯11thはオルタードテンションに含めません(ドミナント7thでは11thの音がavoidノートでありナチュラルもオルタードもないため)…このあたりはいろいろ考え方があるようですが
[注]念のためですがマイナー7th・メジャー7thは含みません
そして一般論としては
(広義の)ドミナント7thコードが登場するとき必ず
- ナチュラルテンションを使う
- オルタードテンションを使う
- どちらも使わない
のいずれかの選択が可能です
そしてナチュラル/オルタードともしばしば9thと13thがセットで使われます(ただし♭9thと♯9thは同時に使わない)
したがって
ナチュラルテンション= 9th,13th
オルタードテンション= ♭9th,♭13th または ♯9th,♭13th
となります
もっとも、状況によっては9thまたは13thのどちらか片方のみ使うケースもあります
一方ナチュラルテンションとオルタードテンションを組み合わせて使う(例えば 9th + ♭13thとか)のはダメではないですが(多分)頻度としてはグッと少ないです
なお「は?セカンダリードミナント?」とか「そもそもドミナント7thって何?」etc.の疑問については申し訳ないですがそこから説明していると膨大になってしまうのでここでは触れません
具体的につかいどころ
では次に丸の内進行におけるオルタードテンションについて具体的に見ていきます
前記事で説明したとおり典型的な丸の内進行は下記の通りでした:
|Ⅳmaj7 Ⅲ7 |Ⅵm7 Ⅴm7 Ⅰ7|〜
Ⅲ7とⅠ7がドミナント7thなのでここでオルタードテンションを使うことが可能です
今回やっていること
今回の曲「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」では以下2つのことをやっています
- Ⅲ7では:オルタードテンションを意識したメロディーライン
- Ⅰ7では:ナチュラルテンション→オルタードテンションで半音下降の流れを作る
下記はこの曲の2番サビ部分のメロ&コード譜です
Ⅲ7(=C♯7)において♭9thを使用している所を水色の丸で囲んでいます
さらにメロの中で♭9thとなっている音符も同様に水色で囲んでいます
一方、Ⅲ7(C♯7)において♯9thの所を同様にオレンジ色の丸で示しています
このサビは4小節×5段の20小節からなりメロディーラインも4小節単位でひとかたまりとなっていますがポイントは四角で囲んだ各段の3小節目(なおアウフタクト(弱起小節)である1段目先頭の小節はカウントしません; 以下同じ)
4小節のメロの中で最も高い音が必ず3小節目に現れています(丸印で囲んだ音符)
そしてその最高音がその箇所におけるオルタードテンションとなっていて、1,2,4,5段目では♭9th、3段目のみ♯9thとなっています
メロディーラインの最高音は往々にして印象を大きく左右しますが、このサビメロでは最高音を常にオルタードテンションとすることでオルタードの響きを強調しています
5段のうち3段目のみ♯9thにして他と雰囲気を変えているのは、この部分がハーフテンポであり全体の流れの中でアクセントとなっているためです
テンションの選択と音階
ドミナント7thにおいてオルタードテンションを使う場合スケール(音階)は何を使うべきか?という点はしばしば重要な問題となります
ただし上で説明したⅢ7オルタードの場合は実はそんなに難しいことはありません
なぜならⅢ7における♭9th, ♯9th, ♭13thの音はいずれも、Ⅲ7にとってはオルタードではあるもののダイアトニックスケール上の音だからです
具体的には、Ⅲ7♭9,♭13の場合は普通に平行短調のハーモニックマイナースケール[†]を使えば良いです…テンションなしの単なるⅢ7のときと同じですね
ハーモニックマイナースケールの第6音・第7音がそれぞれⅢ7における♭9th, 3rdの音になります
[†]この場面で使われるスケールとしてハーモニックマイナー・パーフェクト・フィフス・ビロウと呼ばれるモノモノしい名前の音階がありますが(長すぎるので「Hmp5↓」と略したりします;「完全5度下のハーモニックマイナースケール」という意味)実質的に同じものです
例えば C♯Hmp5↓ は単にF#ハーモニックマイナースケールを第5音(=C#)から並べたもの
一方Ⅲ7♯9,♭13の場合はハーモニックマイナースケールだと納まりがよくありません
せっかく♯9thの響きを強調したいところなのに3rdの音(=ハーモニックマイナーの特性音である半音上がった第7音)が勝ってしまうので...この場合は単にナチュラルマイナースケールを使うほうが往々にして自然です[‡]
[‡]一般論としてはオルタードスケールという選択肢もあるのですが、歌モノで無理に持ち出すこともないかなと
上のメロ譜でハーモニックマイナースケールの特性音であるE♯の音が使われているのは2段目の1小節目だけなのですが(赤い波線の箇所)ここを1,3,4段目と違って♯9thを使わず♭9thのみにしているのは上記の理由からです
オルタードによる半音下降の流れ
一方、Ⅰ7においては
ナチュラルテンション→オルタードテンションで半音下降の流れをつくる
ということをやっていますがこれはメロとは直接関係ないアレンジ面の工夫のひとつです
上のメロ譜で緑色とピンクで示した各段2小節目の後半部分 A9,13 → A7♭9,♭13 のところです
アレンジ上は9th,13th → ♭9th,♭13thと半音下降する流れをベル系の音で強調しています
なお丸の内進行の場合、この半音下降の流れは上記のようにせず
Ⅴm7 → Ⅰ7
の部分を単に
Ⅴm9 → Ⅰ7,♭9,♭13
のようにするだけでもつくることができます
Ⅰ7のナチュラル9th,13thの音がⅤm9にも含まれているからです
上のメロ譜ではA9,13の代わりにEm6,9としている箇所がありますがルート音の違いを除けば構成音はほぼ同じです
このようにオルタードテンションを使って滑らかに下降する流れをつくるという方法は手軽に彩りを添えることができるためいろんなところでよく使われています
注意点としては
伴奏がオルタードテンションとなる箇所でメロ(ハモりも含む)にナチュラルテンションの音を使ってしまうと音が衝突して不自然な響きとなってしまうし第一、歌いにくいのでそうならないように気をつける必要があります
参考動画
オルタードテンションを使う場合のボイシングや、ナチュラルテンション/オルタードテンションの選択に関してジャズピアニストの篠田淳さんが下記の動画で分かりやすく説明されています:
ジャズピアノ講座95 テンション入り両手ボイシングその2 - YouTube
ジャズピアノ講座96 テンションの使い分け方 - YouTube
ジャズピアノ講座となっていますが実用的で分かりやすいのでよく拝見しています
おわりに
自作曲「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」の制作に関して、とくにオルタードテンションを意識したメロ・和声の展開について取り組んだことを記しました
オルタードテンションときくとなんだか複雑そう?とか特別なことのように思えるかもしれません…たしかに元来はジャズの世界で使われ発展してきましたが、現在ではJ-POPやアニソンでもたくさん使われています
あ、今の音なんかいい感じだけど?と思ったらそれはオルタードテンションかもしれないので解析して曲づくりやアレンジに取り入れてみるのも良いのではないでしょうか
最後に楽曲リンクを置いておきます: