7th HopeのBlog〜五線紙のすみっこ〜

おもにボカロ曲・DTMの制作に関することなど

響け!オルタードテンション(クラウドナインの高度 〜silver lining〜 その4)

 

はじめに

この記事は自作曲「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」について先日書いたこちらの記事の続編です 

7th-hope.hatenablog.com

 

今回は上記の前回記事の中で以下のように書いた部分についてのお話です

2. 和声とメロの展開に気を配る
 :
メロも同様に1~8小節、9~12小節、13~20小節の3つの部分で構成しています
そして和声に関しては丸の内進行を土台としつつ、メロの展開を意識しながらオルタードテンション多めに色付けしていきました
 :
この点に関しては次の記事で詳しく書いていく予定です

 

オルタードテンションって?

まずはじめにオルタードテンションについてざっくり説明しますと

ドミナント7thコード(広義の; すなわちセカンダリドミナントを含むすべての7thコード)[注]に付加することができるテンションノートのうち♭9th, ♯9th, ♭13thをオルタードテンションと呼びます
対して 9th, 13thナチュラルテンションと呼びます

オルタードテンションを使うとナチュラルテンションに比べ一風かわった、より複雑な響きに聞こえることが多いです

なおここでは♯11thはオルタードテンションに含めません(ドミナント7thでは11thの音avoidノートでありナチュラルもオルタードもないため)…このあたりはいろいろ考え方があるようですが

[注]念のためですがマイナー7th・メジャー7thは含みません

 

そして一般論としては
(広義の)ドミナント7thコードが登場するとき必ず

  1. ナチュラルテンションを使う
  2. オルタードテンションを使う
  3. どちらも使わない

のいずれかの選択が可能です
そしてナチュラ/オルタードともしばしば9th13thがセットで使われます(ただし♭9thと♯9thは同時に使わない)
したがって

 ナチュラルテンション= 9th,13th

 オルタードテンション= ♭9th,♭13th  または ♯9th,♭13th

となります
もっとも、状況によっては9thまたは13thのどちらか片方のみ使うケースもあります
一方ナチュラルテンションとオルタードテンションを組み合わせて使う(例えば 9th + ♭13thとか)のはダメではないですが(多分)頻度としてはグッと少ないです

 

 なお「は?セカンダリドミナント?」とか「そもそもドミナント7thって何?」etc.の疑問については申し訳ないですがそこから説明していると膨大になってしまうのでここでは触れません

 

具体的につかいどころ 

では次に丸の内進行におけるオルタードテンションについて具体的に見ていきます
前記事で説明したとおり典型的な丸の内進行は下記の通りでした:

|Ⅳmaj7  Ⅲ7 |Ⅵm7  Ⅴm7 Ⅰ7|〜

77ドミナント7thなのでここでオルタードテンションを使うことが可能です

 

今回やっていること

今回の曲「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」では以下2つのことをやっています

  1.  7では:オルタードテンションを意識したメロディーライン
  2.  7では:ナチュラルテンションオルタードテンションで半音下降の流れを作る 

 

下記はこの曲の2番サビ部分のメロ&コード譜です

7(=C♯7)において♭9thを使用している所を水色の丸で囲んでいます
さらにメロの中で♭9thとなっている音符も同様に水色で囲んでいます
一方、Ⅲ7(C♯7)において♯9thの所を同様にオレンジ色の丸で示しています

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このサビは4小節×5段の20小節からなりメロディーラインも4小節単位でひとかたまりとなっていますがポイントは四角で囲んだ各段の3小節目(なおアウフタクト(弱起小節)である1段目先頭の小節はカウントしません; 以下同じ)
4小節のメロの中で最も高い音が必ず3小節目に現れています(丸印で囲んだ音符)
そしてその最高音がその箇所におけるオルタードテンションとなっていて、1,2,4,5段目では♭9th3段目のみ♯9thとなっています

 

メロディーラインの最高音は往々にして印象を大きく左右しますが、このサビメロでは最高音を常にオルタードテンションとすることでオルタードの響きを強調しています
5段のうち3段目のみ♯9thにして他と雰囲気を変えているのは、この部分がハーフテンポであり全体の流れの中でアクセントとなっているためです

 

テンションの選択と音階

ドミナント7thにおいてオルタードテンションを使う場合スケール(音階)は何を使うべきか?という点はしばしば重要な問題となります

ただし上で説明したⅢ7オルタードの場合は実はそんなに難しいことはありません
なぜならⅢ7における♭9th, ♯9th, ♭13thの音はいずれも、Ⅲ7にとってはオルタードではあるもののダイアトニックスケール上の音だからです

 

具体的には、Ⅲ7♭9,♭13の場合は普通に平行短調ハーモニックマイナースケール[†]を使えば良いです…テンションなしの単なるⅢ7のときと同じですね
ハーモニックマイナースケールの第6音・第7音がそれぞれⅢ7における♭9th, 3rdの音になります

[†]この場面で使われるスケールとしてハーモニックマイナー・パーフェクト・フィフス・ビロウと呼ばれるモノモノしい名前の音階がありますが(長すぎるので「Hmp5↓」と略したりします;「完全5度下のハーモニックマイナースケール」という意味)実質的に同じものです
例えば C♯Hmp5↓ は単にF#ハーモニックマイナースケールを第5音(=C#)から並べたもの

 

一方Ⅲ7♯9,♭13の場合はハーモニックマイナースケールだと納まりがよくありません
せっかく♯9thの響きを強調したいところなのに3rdの音(=ハーモニックマイナーの特性音である半音上がった第7音)が勝ってしまうので...この場合は単にナチュラルマイナースケールを使うほうが往々にして自然です[‡]

[‡]一般論としてはオルタードスケールという選択肢もあるのですが、歌モノで無理に持ち出すこともないかなと

 

上のメロ譜でハーモニックマイナースケールの特性音であるE♯の音が使われているのは2段目の1小節目だけなのですが(赤い波線の箇所)ここを1,3,4段目と違って♯9thを使わず♭9thのみにしているのは上記の理由からです

 

オルタードによる半音下降の流れ

一方、Ⅰ7においては
ナチュラルテンション→オルタードテンションで半音下降の流れをつくる
ということをやっていますがこれはメロとは直接関係ないアレンジ面の工夫のひとつです

上のメロ譜で緑色ピンクで示した各段2小節目の後半部分 A9,13A7♭9,♭13 のところです
アレンジ上は9th,13th → ♭9th,♭13thと半音下降する流れをベル系の音で強調しています

なお丸の内進行の場合、この半音下降の流れは上記のようにせず

 Ⅴm7 → Ⅰ7

 の部分を単に

 Ⅴm9 → Ⅰ7,♭9,♭13

のようにするだけでもつくることができます
Ⅰ7のナチュラル9th,13thの音がⅤm9にも含まれているからです

上のメロ譜ではA9,13の代わりにEm6,9としている箇所がありますがルート音の違いを除けば構成音はほぼ同じです

 

このようにオルタードテンションを使って滑らかに下降する流れをつくるという方法は手軽に彩りを添えることができるためいろんなところでよく使われています

注意点としては
伴奏がオルタードテンションとなる箇所でメロ(ハモりも含む)にナチュラルテンションの音を使ってしまうと音が衝突して不自然な響きとなってしまうし第一、歌いにくいのでそうならないように気をつける必要があります

 

参考動画

オルタードテンションを使う場合のボイシングや、ナチュラルテンション/オルタードテンションの選択に関してジャズピアニストの篠田淳さんが下記の動画で分かりやすく説明されています:

 ジャズピアノ講座95 テンション入り両手ボイシングその2 - YouTube
 ジャズピアノ講座96 テンションの使い分け方 - YouTube

ジャズピアノ講座となっていますが実用的で分かりやすいのでよく拝見しています

 

おわりに

自作曲「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」の制作に関して、とくにオルタードテンションを意識したメロ・和声の展開について取り組んだことを記しました

オルタードテンションときくとなんだか複雑そう?とか特別なことのように思えるかもしれません…たしかに元来はジャズの世界で使われ発展してきましたが、現在ではJ-POPやアニソンでもたくさん使われています

あ、今の音なんかいい感じだけど?と思ったらそれはオルタードテンションかもしれないので解析して曲づくりやアレンジに取り入れてみるのも良いのではないでしょうか

 

最後に楽曲リンクを置いておきます:

YouTube

www.youtube.com

 

ニコニコ動画

www.nicovideo.jp

 

 

 

 

丸の内でいこう(クラウドナインの高度 〜silver lining〜 その3)

 

はじめに

この記事は自作曲「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」について少し前に書いた以下2つの記事の続編です 

 

7th-hope.hatenablog.com 

7th-hope.hatenablog.com

 

最初の記事のほうで楽曲の制作に至るまでの経緯を含めた全体的なことを書いていて、「その2」では歌詞の側面から関連する楽曲との接点を説明しているのでこの記事に関連してもしどちらか一方だけ読んでいただけるならば1つ目の記事がよいかと

 

さて今回「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」という楽曲を投稿したところ

和音の響きがきれい
どうやってメロディーを組み立てたのか 

といった感想・質問などいただいたので
そのあたりに答えることも念頭に置きつつ主として作・編曲の側面から2回に分けて書いていきます

 

以下、楽曲リンクです

YouTube

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ニコニコ動画 

www.nicovideo.jp

 

ネタばらし

かれこれ1年近く前になるのですが
昨年9/20にTwitterこんなアンケートをツイートしていました

 

f:id:seventh_hope_1729:20210809173816p:plain

 

半分以上はネタであってアンケート結果がどうなろうと本人はまぁ完成させるつもりでいたのですが、実はこのツイートで「できてしまいそう」と言っていた曲が今回投稿した「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」なのです

そんな前に作ってたの?と思われるかもですが
前2記事にも書いたとおり昨年夏に作り始めてitsmeさんにイラストを依頼した秋には大体できてたので…

 

ところで
ちょうどこの日すなわち2020年9月20日wav出力したファイルが残っていたので聴き返してみたところ、2サビまでで切れててブリッジ以降がなかったりアレンジが今と全然違ったりはするもののメロはほぼ最終形のまんま、歌詞も一部入っていないけど9割がた今と同じ
つまりこの時点で詞とメロはほぼできていました

 

ちなみにそこに至るまでの流れはというと

今と全然違うAメロがあった続いて今のBメロに近いものができたもののそこで行き詰まる→ Aメロを捨てて考え直すサビ部分がなんとなくできてきて作り込み→ Aメロ作り直し

こんな感じでした、たしか
そして歌詞はサビ部分作り込みと並行して書いてました

事実上、比較的素直なBメロ部分からできたというのはなんとなく見当がつくのではないでしょうか

 

丸の内でいこう

作曲・編曲をする人ならだいたい一聴してわかると思いますが
上記のアンケートに「丸の内進行の曲ができてしまいそう」とあるとおりこの曲の多くの部分はいわゆる丸の内進行でできています

しばしば話題になるように、(キリがないので具体的には挙げませんが)丸の内進行の曲がここ数年のヒット曲にとても多いのでまたかよ?とか今更?とか何周遅れだよ?っといった受け止められ方もあり得るかなぁ…とまぁそんな背景から上記のアンケートをツイートしてみたわけです…とは言え上述のとおり私自身はどのみち完成させるつもりだったのですが

具体的にこの曲のどの部分が丸の内進行かというと、サビが全部丸の内進行です
すなわち1サビ16小節、2サビ&ラスサビ各20小節の計56小節
曲全体で108小節あるので丸の内率50%強といったところですね

 

そもそもの話

ここまで何の説明もなく「丸の内進行」なるワードを連発してきましたが今更ながらシンプルに説明すると丸の内進行とは....

|Ⅳmaj7  Ⅲ7 |Ⅵm7  Ⅴm7 Ⅰ7|〜

これです、この2小節を比較的延々と繰り返します

ディグリーネームで表記しましたがCメジャーキーだったら

|Fmaj7  E7 |Am7  Gm7 C7|〜

となります

椎名林檎の初期の名曲「丸の内サディスティック」(1999年)でこの進行が多用されていることからこう呼ばれています(なお「丸の内サディスティック」では2小節目のⅤm7→Ⅰ7の部分が単にⅠ7となります)

ただし「丸の内サディスティック」がオリジナルかというとそんなことは全然なく、ルーツはグローヴァー・ワシントン Jr.のJust the Two of Us(1980年)あたりとされ、その後アイズレー・ブラザーズBetween the Sheets(1983年; 邦題「シルクの似合う夜」)など1980年代以降おもにR&B方面で多用されてきました 

とは言えJust the Two of Us以前にも類似の進行はあったとも言われており、本質的にはよく使われるコード進行のひとつに過ぎないと思います
なお、2小節目後半がⅠ7のものを丸の内進行、Ⅴm7→Ⅰ7のものをJust the Two of Us進行と区別するケースもあるようですがあまり意味がないのでここでは区別しません

 

以下、参考動画を挙げておきます: 
Just the Two of Us も Between the Sheets も40年も前の音源とは思えない雰囲気ですね

Grover Washington Jr. - Just the Two of Us (feat. Bill Withers)
The Isley Brothers - Between the Sheets (Official Audio)
東京事変 - 幕ノ内サディスティック - YouTube

※「丸の内サディスティック」は公式音源がupされていないため東京事変名義のライブ音源(タイトルは「幕ノ内サディスティック」)を挙げています

 

とはいうものの工夫

さて制作の話に戻ります

丸の内進行でも気にしない!
とは言うもののありきたりでは面白くないので自分なりに工夫したいものです…まぁこれは今回に限った話ではないですが

ただ丸の内進行では2小節という短い単位を繰り返すことになるので工夫するにあたってはこの点を考慮するのが良さそうです

 

そこで以下のポイントを意識しました:

  1. ビート感すなわちリズムアレンジに変化をつける
  2. 和声とメロの展開に気を配る

 

まず1について
この曲のサビは4小節かたまり×5回の20小節で構成されていますが(ただし1サビは1回分短く16小節)その3巡目つまり912小節でハーフテンポ(いわゆる半テンってやつですね)にしています
そして13小節目からふたたび元のテンポに戻るもののキックを4つ打ちにしてその前の1〜8小節目とは違う感じに(かつBメロに近いビート感とすることで唐突さを抑制)しています

 

一方、2について 
メロも同様に18小節、912小節、1320小節の3つの部分で構成しています
そして和声に関しては丸の内進行を土台としつつ、メロの展開を意識しながらオルタードテンション多めに色付けしていきました
オルタードテンションというのは平たく言うと本来の音階にない音を和音に重ねたもので、適切に使うことによって通常とはちょっと違う響きを表現できるのですがメロディーとの兼ね合いなど注意すべき点もあります
この点に関しては次の記事で詳しく書いていく予定です

おわりに

今回は自作曲「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」の制作に関して、作・編曲の観点から振り返りました

今回説明し切れていない部分については近日中に次の記事に追記する予定です

スノードロップ四部作のお話(クラウドナインの高度 〜silver lining〜 その2)

 

はじめに

この記事は先日のこちらの記事↓の続編です

7th-hope.hatenablog.com

 

上記記事で「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」という曲が四部作の最終章と書きましたが、今回はこのあたりのことを主に歌詞の観点から整理してみます

正直だれの為?という気がしなくもないですが…言ってしまえば主として自分の為です、制作の記録として書き残しておく為

ただ、楽曲を聴いてくださった方、興味を持ってくださった方がこれを読んで「あ、そういうことね」と感じてその上でまた聴いてもらえたら…という思いもあるにはあります

 

スノードロップ四部作とは

全体構成

前回の記事にも書いたのですが四部作の構成は下記のとおり:

  1. スノードロップと明日への歌 2016年12月発表、2021年2月リメイク版発表
  2. イニシャルMの残像 2017年9月発表
  3. タルト・タタンにさよなら 2017年6月発表
  4. クラウドナインの高度 〜silver lining〜 2021年7月発表 

といっても最初から四部作として作りはじめたわけではないです

ただ「スノードロップと明日への歌」という比較的物語性のある曲をつくったあと、なんとなく自分自身その続きを見てみたいという想いが芽生え、そうして「タルト・タタンにさよなら」「イニシャルMの残像」という曲ができました

そしてこの時点で「もうあと1曲つくって完結させたい」と考えるようになった…というのが実際のところです

 

ざっくり言うと

四部作とはいうものの、ある設定に沿った4つの楽曲があるというだけで別に詳細なストーリーがあるわけではありません

そして第1章「スノードロップと明日への歌」と最終章「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」の2曲が対になっているというのが骨格であって、途中の第2章・第3章はいわば枝葉のようなもの

なので4曲も聴くのはダルいという場合は1曲目と4曲目だけ聴いて雰囲気感じてもらえればまぁ大体OKです

 

ちなみに「詳細なストーリーがあるわけではない」とはいうもののざっくりした流れはこんな感じ:

  1. スノードロップと明日への歌:夢を叶えるためにもうすぐ旅立つ「僕」と歌で思いを届けようとする「君」(1番) → 異国の地で「君」の歌声を思い出しつつ頑張る「僕」(2番)、いわゆる別れと希望の歌
  2. イニシャルMの残像:異国で頑張ってはきたもののパッとしない「僕」、そしていつしか疎遠になった二人の仲、一転して陰鬱な内容の曲
  3. タルト・タタンにさよなら:パッとしないくせに現地で別の女の子と親しくなった「僕」が夢破れて帰国の途につく、というダメダメな「僕」が全開の曲
  4. クラウドナインの高度 〜silver lining〜:帰国便の機内で思いがけず「君」の歌声と再会、そしてひと時の交流…いろいろダメだけどなんとか救われる「僕」

 

こうして整理してみると1曲目以外は暗くてダメな部分ばっかりな感じですが...

ともかく以下の章では「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」の各パートに沿って、他の曲との接点を掘り下げていきます(以降、歌詞を引用する際「クラウドナインの高度〜」は青色、他3曲は緑色で表記します)

 

雲上での再会

 1コーラス目の冒頭、「僕」は航行中の旅客機の機内で、つまり雲の上で思いがけず「君」の姿と歌声に再会します

見覚えのある面影に目を奪われた
銀色の雲海の上のプログラム

 「タルト・タタンにさよなら」では以下のように滞在先で知り合った女の子との別れの場面が描写されるのですが、上記シーンはこのあと搭乗した帰国便の中という流れです

空港へと  向かう朝   レールの音
隣の席 最後だねと ひと言だけ 震える声
 (中略)
出発ロビー 揺れる髪 華奢な背中
雑踏の中 止まった時間  言葉なくし 立ち尽くす
 (中略)
響き渡る最終案内
君がふと 弾かれたように我に返る
突然にじむ視界
(「タルト・タタンにさよなら」より)

 そして続いて

上空3万フィート
君の歌声 あのリフレイン

とあることから、声だけでなく歌も聞き覚えのあるものであることが伺えます

 これは「スノードロップと明日への歌」の中で歌われていた歌なのでしょう

あと何回こうして君に届けられるだろう
言葉では伝えきれない思いを
旋律に込めて歌う 明日への歌を
 (中略)
僕とはまるで無関係なノイズの中に浮かぶ横顔と
明日への歌が
今もずっとループしてるんだ そして僕を支えてくれる
(「スノードロップと明日への歌」より)

また「雲の上」で「君」の歌声にめぐり逢ったというのは「イニシャルMの残像」での天使の梯子の場面が現実になった、とも言えます

雲間に架かる天使の梯子から
君の歌が聞こえた気がしたけど
(中略) 
雲間に消えた天使の梯子にさえ
面影を探してしまったけど
(「イニシャルMの残像」より)

 

 続くサビ部分でMVの中の「君」を見ながら「僕」は自問します

このスクリーンの中 君の髪はふんわり舞うのに
ねぇ 僕は何をしてきたんだろう?

機内プログラムでMVがオンエアされるくらいですから「君」は今や歌手として立派に活躍している、それに引きかえ自分は何もできていないじゃないか…というわけです

自分は飛べる いつか飛べるはず
そう信じでここへ旅立ったけど
今ではまるで世界から切り離されたエトランゼ
(「イニシャルMの残像」より)

そしてアドレス帳でMのページを開き途方に暮れる…

思わず開いたMの画面をスクロール
君の名前がにじんで流れてく

Mは言うまでもなく「君」のイニシャルです

イニシャルM 一文字だけでまだ先頭に現れる
君の名前を見て 胸が粟立つ画面にも
今では慣れたけど
(「イニシャルMの残像」より)

 

「私」の目線から

2コーラス目では「私」つまり「君」の目線から「僕」への想いが語られます

私の歌を聴いてくれた あなたの横顔に
この声は今でもまだ届いてるかな?
たくさんのことが変わったけれど
ずっと憶えてる いつもの帰り道
あの頃の未来には戻れなくても

スノードロップと明日への歌」の頃のことを今でも憶えているというわけです

雪どけの帰り道
柔らかな日差しにきらめく君
私は今日もこの歌を歌う
それが私にできること

(「スノードロップと明日への歌」より)

 

そしてこう続きます

積み重ねた願いも失くした夢も つまづいた道も
全部あなたが刻んだ証だから
あなたにしか描けない世界がきっとあるはず
羽を休めたらまた始めればいい

これは以下の部分と重なります

君はあと少しで旅立っていくね 夢だけを抱え
(中略)
季節がめぐり
思ってたのと違う未来がやってきたとしても
泣かないでいられるように歌うよ
(「スノードロップと明日への歌」より)

遠く離れて疎遠になってしまったけれどあの頃の気持ちを忘れたわけではないよ、ということですね

 

ひと時の交流、そのかたち

ところで2コーラス目で語られた「私」の想いはどんな形で「僕」に伝えられたのでしょうか? そもそも伝えることはできたのでしょうか?

どこまで実際に伝えられたかに関しては歌詞の中で明確にはしていませんが、そのあとのブリッジ〜落ちサビ部分から、リモート的な手段で二人がコミュニケーションをとったであろうことが分かります

モニター越しのひと時だけでも伝わる
リアルな絆を感じて

明日になればまた それぞれの朝
それでも遠く離れても
この空見上げ 寄り添っていたい

 

実はこの部分、つまり二人がどのような形で再会するのか?について長いあいだ決められずにいました

雲の上でMVという形で出会うというアイデアは第4章の検討を始めた最初の段階からすでにあったのですが、ストーリーとして完結させるためには実際にコミュニケーションがとれる形で二人が再会する場面も必要と考えました

当然、電話やSNSは考えましたが何かイメージと違う、しかしだからといって直接再会するというのも何か違うと思え…

こうして第4章の制作に着手せぬまま年月が経ってしまったのですが

 

そうこうするうちに突如、現実の世界に大きな変化が起きました

言うまでもなく、大切な人に会いたくても会えないというコロナ禍の世の中です

離れて暮らす身内に会いに行くことも、遠方の友人・知人と会うことも、推しの現場に行くことも各種イベントに参加することも…さまざまな種類の「大切な人」 と会うことが、ある時を境に極めて困難になってしまいました

しかしそうした中でも皆が工夫をして、それまではビジネスが主用途だったZoom等のツールを活用して、直接接触しない形で交流してなんとか関係を保とうとしている…

 

そこにヒントを得てモニター越しでの再会という形に決め、2020年の夏にようやく制作に着手しました

 

そうは言ってもこの曲で「僕」が帰国するタイミングが今のコロナ禍と明確に設定しているわけではなく(その場合、帰国自体も簡単ではない可能性がありますし)したがってそういう解釈もできるかも?と匂わす程度に留めているのですが

 

ちなみに2番Bメロのこの部分は

たくさんのことが変わったけれど
ずっと憶えてる

二人を取り巻く状況が時とともに変化したことに加えて

上述のように社会そのもののあり方も従来とは大きく変わってしまったということをそれとなく表している、という意図もあります

 

おわりに

以上、「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」の歌詞を中心として、四部作の他の曲との接点について説明してきました

自分が発表した曲について、特に歌詞に関しての解説は基本的にやらないのですが今回は四部作ということもあり、長々とお付き合いありがとうございました

このあと、作編曲の観点からもあらためて記事にできたらと計画しています(数日後くらい?)

 

最後にスノードロップ四部作 各楽曲のリンクです:

1. スノードロップと明日への歌

 【YouTube】 https://www.youtube.com/watch?v=qgBR7qnWf1Q

 【ニコニコ】 https://www.nicovideo.jp/watch/sm38340188

2. イニシャルMの残像

 【YouTube】 https://www.youtube.com/watch?v=BWwcJ0xoHuM

 【ニコニコ】 https://www.nicovideo.jp/watch/sm31935848

3. タルト・タタンにさよなら

 【YouTube】 https://www.youtube.com/watch?v=WvyOB5Qk9Kg

 【ニコニコ】 https://www.nicovideo.jp/watch/sm31451543

4. クラウドナインの高度 〜silver lining〜

 【YouTube】 https://www.youtube.com/watch?v=yC3GyTOmrLE

 【ニコニコ】  https://www.nicovideo.jp/watch/sm39067474

 

 

クラウドナインの高度 〜silver lining〜

 

はじめに

久しぶりの更新となってしまいましたが

先日投稿した「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」という楽曲の制作に関することを何回かに分けて書いていきます

今回はおもに制作の経緯について

 

楽曲リンク

YouTube

www.youtube.com

ニコニコ動画

www.nicovideo.jp

ピアプロ(楽曲&歌詞)

piapro.jp

 

この楽曲について

各投稿サイトにも記載のとおりこの曲は2月にリメイク版を投稿した「スノードロップと明日への歌」を起点とする四部作の最終章となる楽曲です

四部作の構成は下記のとおり:

  1. スノードロップと明日への歌 2016年12月発表、2021年2月リメイク版発表
  2. イニシャルMの残像 2017年9月発表
  3. タルト・タタンにさよなら 2017年6月発表
  4. クラウドナインの高度 〜silver lining〜 2021年7月発表(今作) 

1〜3曲目までに比べるとこの最終章は発表までに随分と間があいてしまいました

4曲とも作詞・作曲・アレンジなど音関係はすべて私ひとりで制作していますが今回はイラストをitsme(いつみ)さんに担当していただきました

 

なお「スノードロップと明日への歌」のリメイク版についてはこちらの記事で紹介しています

7th-hope.hatenablog.com

  

制作の経緯

 あれは3年前

 2018年の夏頃つまり今から3年前「クロワッサンの想い出」という楽曲で初めていつみさんにイラストを描いていただいたことがありました

そして確かその頃(あるいはもう少し以前だったかも...)当時すでに発表済みだった「タルト・タタンにさよなら」「イニシャルMの残像」などの曲について、いつみさんが感想を聞かせてくださったことがありました、TwitterのDMにて

 

その際「イニシャルMの残像」という曲の歌詞に「天使の梯子」という言葉が出てくるのですが、そのつながりからいつみさんが以下のように語ってくださいました:

雲に関係する表現には silver lining というのもありますね

Every cloud has a sliver lining  〜どんな雲も銀色に輝く縁取り(もしくは裏地)がある〜  つまり、どんなに厚い雲に覆われていても雲の向こう側は晴れ渡っているように、角度を変えれば違った見え方になるという

それを聞いて英語らしい素敵な表現だなと思うとともに、このsilver liningという表現を使ってもう1曲つくって四部作として完成させよう!と決意したのでした(そしていつみさんにもそう伝えた...ように記憶しています、たしか)

 

ちなみに「天使の梯子」というのは雲の切れ目から光の筋が降り注いで神々しく見える気象現象のことで英語では Jacob's ladder と呼ばれます

これは私が以前たまたま撮ったスナップショットですが、たしかに雲の縁や裏側は明るく輝いていると思えます

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天使の梯子

 

もうひとつのキーワード

ところで silver lining と並んでもうひとつこの曲のキーワードであり曲名にも含まれているクラウドナイン(cloud nine)という言葉、こちらはいつみさんに silver liningというアイデアを頂く前からぼんやりと構想の中にありました

ちなみにcloud nineという言葉は本来は「天にも昇る気持ち」「この上もない幸せ」といった意味を表し " I'm on cloud nine" のように使われます

ちなみに私が十数年来、愛してやまないPerfumeの初期の作品に Seventh Heaven という名曲がありますがこの seventh heaven という表現もほぼ同じ意味の言葉で、これはキリスト教的世界観では天国は7階層になっていてその最上位というのが由来

一方cloud nine というのは元はといえば、雲は気象学上9区分ありその中でも最も高い高度に位置する積乱雲のことを9番目の雲 = cloud nine と呼ぶのですが、いつしか比喩的に seventh heaven とほぼ同じ意味で使われるようになった、ということのようです

と、まぁこれはちょっと脱線

 

つながるイメージ

四部作の最終章を作るにあたってまず考えたのは、疎遠になってしまった二人すなわち「僕」と「君」とが「再会」するシチュエーションとして何がふさわしいか?という点でした

silver lining と cloud nine という2つのキーワードから漠然と「雲の上」をイメージしたものの、実際に雲の上で再会というのはちょっと非現実的です

そこでたどり着いたのは

雲の上を航行中の飛行機の機内プログラムで、歌手として活躍する「君」のMVが流れてきて思いがけず「再会」する

という形、これが今回の曲の冒頭シーンです

 

見覚えのある面影に目を奪われた

銀色の雲海の上のプログラム

 

ちなみに第3章の「タルト・タタンにさよなら」では、海外で過ごした「僕」が失意の末に日本へ帰国することになり現地で親しくなった女の子と空港で別れる、という場面を描きましたが、上記はこのとき搭乗した帰国便の機内という設定

 

というわけでここでは「cloud nine = 最高の幸せ」という慣用的な意味よりはむしろ文字どおり「雲の上」という意味合いが強いのですが

もっとも曲の終盤では「いつかふたりが生まれ変わってまためぐり逢う場所=クラウドナイン」として、ふたりをつなぐ絆の象徴ないしは心の拠り所と位置付けています

 

ともあれ silver lining と cloud nine という雲に関連する2つのキーワードが揃ったところで四部作の完結編となる歌詞の骨格がおぼろげながら見えてきました

しかし歌詞としてまとめ上げるにはもうひとつイメージが固まらず、実際に制作に着手したのは2020年の夏頃になってしまったのですが、この点については別記事であらためて書こうと思います

 

コラボ依頼

2020年の秋、曲がだいたい形になってきたところでどんな形で公開しようかと考え始め

silver lining というアイデアを与えてくださったいつみさんに絵を描いていただければ!

と思い依頼のDMを送りました、かなり先まで制作予定が詰まっていることは伺っていたので、半年くらい先でも構いませんので...といった感じで

そして制作中の曲も聴いていただき、引き受けていただきました、これが2020年の11月末〜12月の頃

ちなみに「半年くらい先でも...」というのは、この曲を発表する前に「スノードロップと明日への歌」をリメイクする予定だったためです

 

そして今年の2月に「スノードロップ〜」のリメイク版を投稿した後、3月末頃にイラストについて具体的なイメージをいつみさんにお伝えしたところ早くも3日後くらいにラフ画を送っていただきました

この時点ですでに「雲の裏側は銀に輝いてる」というイメージにぴったりな光溢れる感じが素晴らしいものでした

その後さらに、私のふわっとした注文にもあれこれ応えていただき、最終的に5月中旬頃に完成版を納入いただきました

 

そして完成!

その後6月中旬頃までは私が動画制作のための時間をなかなか確保できなかったこともあり、最終的に動画を完成し投稿できたのは7月22日となりました

3年以上という長期間に渡ってあたためてきた構想をこうして形にすることができ、silver lining というアイデアを与えてくださった上にイラストを引き受けてくださったいつみさんには大変感謝しています

今後は、スノードロップ四部作をミニアルバムとしてなんらかの形で発表できればと考えています

 

おわりに

今回は「クラウドナインの高度 〜silver lining〜」という楽曲の制作の経緯について書きました

とっても長くなってしまいましたがここまでお付き合いいただきありがとうございます

 

歌詞の内容や四部作の他の楽曲とのつながり、あるいはサウンド面など曲自体に関するお話は別記事に書く予定です

 

追記

絵を描いてくださったitsme(いつみ)さんがこの楽曲に関するブログ記事を投稿されました(2021-08-16)
ぜひ是非あわせて読んでいただければと思います

 

itsmeee.hatenablog.com

 

【歌詞】クラウドナインの高度 〜silver lining〜

この曲に関する記事はこちら:

7th-hope.hatenablog.com

 

 

クラウドナインの高度 〜silver lining〜 by 7th Hope

見覚えのある面影に目を奪われた
銀色の雲海の上のプログラム

上空3万フィート
君の歌声 あのリフレイン
2年半の日々を越えて
歯車がまた 動き出すけど

このスクリーンの中 君の髪はふんわり舞うのに
ねぇ 僕は何をしてきたんだろう?
筆を折ったあの日から目を背けてきた
嫉妬も羨望も夢も孤独も
思わず開いたMの画面をスクロール
君の名前がにじんで流れてく


私の歌を聴いてくれた あなたの横顔に
この声は今でもまだ届いてるかな?

たくさんのことが変わったけれど
ずっと憶えてる いつもの帰り道
あの頃の未来には戻れなくても

積み重ねた願いも失くした夢も つまづいた道も
全部あなたが刻んだ証だから
あなたにしか描けない世界がきっとあるはず
羽を休めたらまた始めればいい
雨音がモノクロームに辺りを染めても
(ひとりじゃない 見つめてる)
雲の裏側は銀に輝いてる
(Every cloud has a silver lining)
だからここがスタートライン
(いつだって煌めいてる)

モニター越しのひと時だけでも伝わる
リアルな絆を感じて

明日になればまた それぞれの朝
それでも遠く離れても
この空見上げ 寄り添っていたい
次の未来もその次も ふたりはきっと
生まれ変わって再び巡り会う
時空を越えて旅路が交差する
(新しい出発点)
この雲のはるか彼方クラウドナイン
(Every cloud has a silver lining)
いつか もっと輝くから
(呑み込んだ言葉さえ動き出す)
きっと…

ホントは怖い第1転回形 ~自作曲をリメイクしてみて思ったこと(2)

 

はじめに

この記事は下記の記事に書いた自作曲リメイク版「スノードロップと明日への歌 2021 ver.」の制作に関連して思ったことの第2弾です

今回はDTMというより少々音楽理論寄りのお話になります 

7th-hope.hatenablog.com

 

第1転回形はお好き?

いきなりですが皆さん第1転回形は好きですか? 

(第1転回形って何?と思った人は例えばこちら参照→ 和音の種類~洗足オンラインスクール   ひと言で言うと根音でなく第3音が最低音となるように音を積んだ和音のこと、「6の和音」とも呼ばれるのは最低音の6度上に根音がくるから)

なんとなく響きが荘厳というかクラシカルな雰囲気もあり適度な変化を出すことができるので私はけっこう好きです

 

2 + 4 + 4

下の譜面は自作曲「スノードロップと明日への歌」のサビ部分です(動画でいうと1分22秒あたり~)

第1転回形が何ヶ所かありますがそれについては後で述べていくとして

 

このサビメロは10小節のうち3~6小節と7~10小節がメロも和音もだいたい似通ってるのに対して1,2小節目だけ別物になっています

つまり「2小節 + 4小節 + 4小節」という構造でこれわりかし珍しいんじゃないかなと

 一般的には4小節が基本単位となってそれが組み合わさって8小節とか12小節とか16小節で楽曲の構成要素となることが多く…時にはそこに1,2小節追加されたり逆に短くなることもありますが

なので「4 + 4 + 2」とかは比較的ある気がするんですが「2 + 4 + 4」ってあんまりないような…これは後で気づいたらそうなってたってだけでだから何?って話では別にないんですけど

ていうかそもそも今回の本題と関係ない😅( ̄▽ ̄;)オイ

 

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ある日のできごと

 2月後半のある日、通勤途中の電車の中

アレンジ&ミックスがだいたい終わって完成に近づいた自作曲のリメイク版をiPhoneで聴いていた私はある瞬間、妙な違和感を感じました

…んんん? 何これ?

それは自分がイメージした響きとは明らかに違うものの、音が濁って不協和音に聞こえるミストーンという感じでもなく、あえて言うならばまるで

   和音じゃないような感じ?

 確かに音は積まれているのにそれらが響き合わないというか…

家に帰ったら確認せねば!

と思いつつ昨夜の作業内容を思い返していた私はあることに思い当たります

 

第1転回形の決まりごと

 和音の第1転回形には決まりごとがあります

それは一言で言うと「最低音である第3音を上声部に重ねない」というもの(ただし上声部の一番下にくるのはOK)

詳しくは「第1転回形 ボイシング」とかで検索すればゴロゴロ出てくるのでそちらを見ていただくとして、なぜこれがダメなのかというと

そうしないのが第1転回形の本来の響きだから

って事だと私は理解しています

したがってこの決まりごとは絶対的に従うべきとまでは言えないものの無視すると残念なことになる(場合がある)ということは知っておいたほうが良いです

 

問題の箇所

さて家に帰った私は遅い食事を済ませ、すでに日付が変わった深夜0時過ぎだったでしょうか眠い目をこすりつつCubaseを立ち上げます

そしてさっき違和感を感じた箇所を確認すると原因はすぐに判明します

あーやっぱり…ていうかぅゎこりゃひでぇ💦

問題の箇所はサビの7小節目(上の譜面でいえば3段目の先頭)の1〜2拍目

 F7/A → E♭6/G

の部分、そうですともに第1転回形(さらにその次もですが)

 

サビ後半のここはいわば曲のヤマ場、ストリングスの裏メロにさらにブラスのフレーズも重なってくるのですが

ストリングスにもブラスにも第3音が含まれているばかりか、右のほうで鳴っているガットギターはあろうことかトップノートが第3音、さらに奥のパッドにも第3音が含まれるという状態でした ( ̄▽ ̄);;;

 

一体どんなアレンジしとんねんオノレって話ですが…😅

元々この箇所は第1転回形ではなく基本形でした(4年前の原曲版でも同じ)

つまり直前の部分から書くと普通に

Gm7/C → F7 → E♭6 (ディグリーネームで書けば Ⅱm7/Ⅴ → Ⅰ7 → ♭Ⅶ6)

だったところ、その前日ベースのパートを全面的に見直していてここを

Gm7/C → C7,13/B♭ → F7/A → E♭6/G

とベースが下降してく風にしたらカッコイイんじゃね?と変更したところだったのです

しかしその日も深夜で疲れていたのか、ここで力尽き上声部を見直すことなく作業を終了してしまっていた…そのため第1転回形が本来の響きになっていなかった

それが電車の中で感じた違和感の正体でした

 

かくしてこの部分の全パートのボイシングを見直して第3音を含まないよう修正しこの問題は解決♪

以上、いや〜第1転回形って油断すると怖いですねっていうお話でした

 

そんなに単純でもなく

さてさて、上のほうで第1転回形の決まりごと=「第3音を上声部に重ねない」と一言で片付けましたが常にそうなのか?というと実は違っていて、まず マイナーコードはOKです

ダイアトニックコードに関して言えばこの決まりごとが当てはまるのは Ⅰ, Ⅳ, Ⅴ の主要3和音のみで、Ⅱm, Ⅲm, Ⅵm, Ⅶm-5 のマイナーコード(ハーフディミニッシュ含む)は対象外とされています

これについて少し考えてみると

例えば Amの第Ⅰ転回形 Am/C

これってほぼほぼ C6 と等価ですよね? なら上声部にCの音が重なっててもべつに構わないだろって話

 

ならノンダイアトニックの場合はどうなのかというと

メジャーコードの場合は主要3和音と同じ扱いです、セカンダリドミナントとかですね

一方マイナーコードはノンダイアトニックの場合も上と同じ理由でOKです…っていうかマイナーコードの第1転回形は通常、私は第1転回形で表記せずメジャーコードの6thで表記しますほとんどの場合(そのほうが分かりやすいので)

 

意図による面も

次にちょっと別の観点から、例えばキーCメジャー or Aマイナーでよくある

 G7 → E7(♭9)/G# → Am7

という進行について考えてみます

 

この場合のE7/G#はたしかに第1転回形であるもののこの進行は最低音が半音ずつ上昇することが重要なのであって第1転回形の響きを聞かせる意図は相対的に希薄であるといえます

また別のとらえ方として、E7♭9/G# のように短9度が乗っている場合は(or重ねても違和感ない場合も含め)第1転回形というより根音省略と見ることもできます

つまり根音を省略したため結果的に第3音が最低音になっていると…そしてドミナント7th♭9の根音省略ってことは要するにdimですね

となると上の進行は

 G7 → G#dim → Am7

とほぼ同じなので上声部にG#を鳴らしたらダメってことは別にない(そのかわり省略したはずのE音は鳴らすべきでない…G#dimの響きが意図したイメージと食い違わないならばですが)

一方「短9度なんつー陰鬱な響きはイメージじゃないゼ」という場合であっても依然として最低音が半音上昇することこそがこの進行が意図する最重要ポイントであるとするならば、やはりG#を重ねてもそんなに違和感ないってケースも十分あり得るかなと思います

 

要はそこでどんな響きを表現したいのか、意図次第、ケースバイケースってことかなぁと…私の個人的な理解ですが

 

なるべくなら気にしたほうがいい

ということでまとめると

メジャーコードの第1転回形を使うときは「第3音を重ねない」という決まりごとを気にしたほうがいいです、第1転回形本来の響きを表現するためには

そのためには本来の響きがそもそもどういうものか知る必要がありますがこれはもう自分で鳴らしたり効果的に使われている曲を聴いたりして掴むしかないですね

ただしそれに縛られなくてもOKという場合もありえるので最終的には意図次第

そんなところです

 

けっこう長くなってしまいましたがここまで読んでいただきありがとうございました

最後に楽曲動画のリンクをつけておきます

 


【初音ミク】スノードロップと明日への歌 2021 ver.【オリジナル曲】/ Snowdrop and a Tomorrow's Song for You (Feat. Hatsune Miku)

 

 

M/S処理その前に ~自作曲をリメイクしてみて感じたこと

 

はじめに

この記事は先日のこちらの記事↓の続編です

 

今回は特に上記記事の中でこのように↓書いた部分に関することをあれこれと

原曲版では音像が今ひとつだった、楽曲の骨格となるべきキックやベース、スネアなどをしっかり整えることを最重要課題として音色の選定・構成、EQなど全面的に見直しました

まだまだ改良の余地はあると思いますが改善できているのではないかと

スノードロップと明日への歌 2021 ver. - 7th HopeのBlog〜五線紙のすみっこ〜

 

リメイク版を聴いてくださった方から「クオリティ上がった」「スッキリ聴きやすくなった」「良くなった」などの感想を幾つか頂いていることもあり、感じたことをこの機会に覚え書きとしてまとめておこうというのが今回の趣旨です

DTMないし楽曲制作についての内容なので読む人によっては何のことかよく分からなかったり、逆にそんなこと知っとるわいと思われるかも知れないですが

知識は人によりけりでその辺は仕方のないことなのでご容赦ください

また間違いとかもっとこうしたほうがいいんじゃね?とかあればご指摘いただけると嬉しいです

 

物ごとには順序が

その昔、ユニークなネーミングで知られる小林製薬に「トイレその前に」という商品がありました

いわゆる気になるにおいを軽減するやつです

えっそれ「トイレその後に」では?と思った人! いえいえあったのです昔それとは違うやつが…ひょっとして思い違いじゃないだろうなと検索してみると確かにそれらしき情報がちらほら(ズバリな情報にはたどりつけませんでしたが)

まぁ何はともあれ物ごとは順序とか準備とか大切ですよね

 

ところでM/S処理

さて今回のタイトルにあるM/S処理

ある程度、楽曲制作やミキシングの経験がある人にとってはあらためて説明するまでもないことかもですが

ひと言で言うとL/Rのステレオ音源をMid(中央)成分とSide(両サイド)成分とに分けてEQなどの処理を行うこと

2mix後のマスタートラックに対して使う形が典型的ですがmix前の各トラックに適用することもできます

ただし

それだけで一気に楽曲のクオリティを上げてくれる魔法のようなものってわけではないです (そもそもじゅうぶん使いこなせてもいない)

 

先に結論

わりと長くなりそうなので先に今回の結論をまとめます:

  • M/S処理は音の重心というか骨格を安定させるのに有効
  • ただし前提として音が適切に配置されていること(高低、空間軸、時間軸...) 
  • 空間系エフェクトの利用はほどほどに

えっそんなこと?とか お前それどんだけできとんねん?とか聞こえてきそうですが😅

あとはちょっと別の観点&以前から思ってることとしてリファレンス音源というか、目標・参考とし比較する音源(曲)はあったほうがいい、てのもあります

 

CubaseにおけるM/S処理

今回のリメイクでM/S処理に関して実際にやったことはマスタートラックのM, SそれぞれにEQをかけただけです(ズコー)

私はCubaseで楽曲を制作していますが、もしあなたがCubaseユーザーならこのために特別な追加投資は必要ありません

付属EQのひとつであるFrequencyでM/S処理ができます(ver.9以降だったかな? あとPro以外の下位エディションにはついてないかも)

これひょっとして知らずに使ってる人いるんじゃないかと...なぜなら私が以前そうだったからです...えっそんな奴いない?(がーん)

 

さて気を取り直して 

 

Frequencyでは8つのパラメトリック帯域それぞれで

 ステレオ(=通常のL/R) または Mid/Side または Left/Right別々

に対してEQをかけることができます

初期状態でSTと表示されているところの◀︎▶︎をクリックするとモードが切り替わり、M/Sの場合はさらにすぐ下のタブでMid/Sideを切り替えます

 

あっところでM/S処理はべつにEQだけとは限りませんが他の処理については言及しません(M/S別々にコンプ…といった話も聞きますがいろいろ厄介なことが起きそうで自分としては立ち入る領域ではないかな、と思ったり)

 

実際にやったこと

今回Frequencyをどう設定したかというと至ってシンプルで↓こんな風

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 Midは低域を補うために100Hz付近を少し持ち上げるとともに、ストリングス等のウワモノを浮き上がらせるために6KHz付近も少々ブーストしています

一方Sideは低域120Hz辺りから下をばっさりカットする一方、高域をシェルビングで持ち上げています

こうすることで曲の骨格となるキックやベースが安定するとともに、左右に広めに配置してあるパートをvoの邪魔になることなく適度に強調する

…といったあたりが狙い

実際のところ誰もが一聴して分かるほどガラッと変わるわけではないですが、自分で聴き比べて違いが分かる程度には効果がありました

 ちなみに左右に広く振ったパートは今回の場合おもにハイハット、アコギ2種(R側ガット弦、L側スティール弦)、あとはこまごましたパーカッション類などですね

  

ところでFrequencyはCubase11でFrequency2にグレードアップしたそうですが私はまだ11に上げてません💦(近々ver. upするつもり)

 

そうはいっても…

上記のようにM/S処理に関しては8バンドを駆使してきめ細かく設定…てな感じでは全然ないです

しかしマスタートラックに対してそんなに細かくアレコレするものではないんじゃないかな?とも思います…曲作り〜ミックスから自分でやる場合には(2mixが終わっててマスタリングだけって場合は別ですが)

 

これはわりと以前から思っていることなんですが

私ふくめアマチュアレベルの楽曲制作者がミックスやマスタリングの段階で解決しようとしがちな問題の半分くらいはもっと前段階の作曲〜アレンジで解決すべきことのような気がします(場合によっては半分以上かもしれない)

 

たとえばマスタートラックで低域をブーストしようにもその成分が絶対的に足りてなければ持ち上げようがないわけで、そういったことは各トラックの音作りやミックスのバランスで解決すべきだし(そういえば一部のトラックには適宜サチュレーターで倍音を補う、ということもやってます)

 

あとありがちな話として

vocalの他いろんなパートが中域に集まってごちゃっとなった、いわゆるダンゴ状態(初心者のうちは素朴に作るとたいていこうなりがち)の場合は、EQなどミックスでどうこうする以前にまずvo.を邪魔しないように各パートの音域や演奏内容自体から見直すべき(これも必ずしも簡単でなくて素朴にvo.の音域を避けると中低域がスカスカになったりするのでボイシングとか大事ですね)

 

というわけで

悩んだ時はこれもっと前段階で解決するべきなんじゃない?と考え直すこともけっこう重要かなぁと…あらためて私が言うようなことでもないですが

 

空間系エフェクトはほどほどに

これはミックス段階で…って話の一部でもあるのですが

 私はリバーブの使い方がいまだ十分に理解できておらず…😅にも関わらずいわゆる「奥行き」とか「立体感」とかを出そうとしてわりと派手に使ってしまいがちだったのですが、最近は違うのかなと思ってなるべく控えるようにしています

あとディレイに関してはバンニングディレイってあるじゃないですかディレイ音があっちこっち動くやつ…けっこう無造作に使ってたんですがこれも適材適所かなと

 

まぁパンニングディレイは今回も少々使ってはいるのですが、Aメロ〜Bメロあたりの比較的オケが薄めの部分だけです

「雪どけの帰り道、柔らかな日差しにきらめく君」といった歌詞があるのですがそういった情景を表現するために細かいパートをいろいろ散りばめて演出しています

音数が少なめな部分であれば音の配置も整理しやすいですがサビのようにオケが厚くなるとそうもいきません

ディレイ音が飛んだ先、その音がおさまるスペース空いてますか?ってことですね要は

 

原曲版に比べてスッキリとしたのは、直接的にはM/S処理よりも空間系エフェクトの使い方による部分が大きいと思います原曲版をつくった当時はこの辺かなり適当だったので…最近つくった曲ではそこまで酷くない(と思いたい)ですが 

 

 さいごに

といった感じで

以前つくったものをリメイクすることで見えてくる部分もあるものだなぁと思った次第です

この他ちょっと別の話として、できるだけいろんな再生環境で聴いて確かめてみるとか、目標にする音源を聴いて参考にすべきとか…ってのも皆さんやってるでしょうけれど日々感じてます

 

以上が今回のリメイクを通してミックス&マスタリングに関して思ったことでした

後日、気が向いたら別側面のことについても書くかもしれないです

ここまで読んでいただきありがとうございました